「free style furniture DEW」(60頁)で取材中、今井京子さんに、上の写真の板について説明していただいた。漆職人が漆を塗る際、こぼれたりはみだした漆で床が汚れないよう、作業台の下で漆を受け止めるものが必要となる。この板は、その漆をただ受け止めるだけの板だったのだ。この板を目の当たりにした時、私の脳裏に浮かんできたのが、岡本太郎氏の次のようなことばだった。
美しいものではあっても、美しいと言わない、そう表現してはならないところにこの文化の本質がある。生活そのものとして、その流れる場の瞬間瞬間にしかないもの。そして美的価値だとか、凝視される対象になったとたん、その実体を喪失してしまうような、そこに私のつきとめたい生命の感動を見とるのだ。
(中略)その美しさなんて、本質的にいってそんなもの、あろうがなかろうが、どうでもいいことなのだ。ただ、それが媒体となり、それを通して直観し、感じとる、永劫ーーなまなましい時間と空間。
悠久に流れる生命の持続。
(中略)問題は組織された社会の、組織された時間の中に、この初源的な感動の持続をいかにもり込み、生かすかということだ。
(岡本太郎 『沖縄文化論 忘れられた日本』昭和47年 中央公論社刊)
カフェにおいての『初源的な感動の持続』を考察した時、直観的に来訪者の感覚に響く要素があるかどうかが大きい。よく「店に滲み出る雰囲気」と表現されたり、「食堂 果樹」(24頁)の中村菜穂さんのことばを借りれば『シネマのシーンのよう』な状態が正にそうだ。その背景の核を成すのが、店主の記憶、場やモノに蓄積された記憶ではないだろうか。それは、そのカフェがそのカフェたるゆえん。それぞれのカフェの〝記憶の履歴書〟を紐解くことで、房総のカフェの新たな魅力が見えてくる。
「房総カフェⅣ 記憶の履歴書」
プロローグ
ミナモ
町の歴史とともに
町家カフェ むさしや
tronc
蔵のカフェ+ギャラリー 灯環
それぞれの履歴書
食堂 果樹
コーヒー くろねこ舎
TOONBO CAFE
コピエ
Vegetable&Fruit 古民家カフェ Conaya
ぽぽぽべーぐる
Scone Cafe パニパニ
TOAST AND HONEY
作り手の気配
ギャラリーカフェ 風草
Manor House
free style furniture DEW
記憶の旅路へ
TRAYCLE Market & Coffee
2017年2月発行/880円(税込)
編集発行人:沼尻亙司 発行所:暮ラシカルデザイン編集室
本文74p/A5版