【いっぴんさん】今号は「おちちや」さんの「玄米ごはんのパイ」。ですが、伝えきれなかった「天然酵母パン」編があるのです。少女の夢はささやかな幸せとなって地域に寄り添います

 

『季節感があって大地を戴くもの。そんな気がする』

 

そして、地元に

『ささやかな幸せをお届けしたい』

 

……… おいしさに織り交ぜられた少女の夢

 

天然酵母パンと季節のおやつ  いのちをはぐくむ 「おちちや」

いすみ市上布施1129  11:00~17:00(水・金曜のみ営業)

※イートイン可能。珈琲や有機紅茶あり

今月も千葉県のタウン情報誌『月刊ぐるっと千葉』が発売になりました。今号は市原のアートミックスが特集ですね。最新4月号のいっぴんさん、久しぶりに「おちちや」さんを取材させていただきました。

 

店主の周東澄江さんに取材のアポを取ろうとおちちやさんを事前に訪ねたのですが、以前同じくいっぴんさんでオイルサーディーンを紹介させていただいた、大原の「漁師工房 拓」の中村さんご夫妻をばったり。思わぬ偶然に思わずお互い「オー!!」と歓声を挙げてしまいました(笑)。私の生活圏も、もう内房ではなく、外房になったのだなと改めて実感。こういう思わぬ出会いがここ最近増えてきたように感じます。

 

さて、「いすみ市」といっても場所的にはほとんど御宿で、界隈には古民家の蕎麦屋で名の知られる「幸七」さんがあります。おちちやさんも築300年という古民家で、大きな屋根を頂いています。

 

未舗装の小道をこんもりとした杜に向かって進んでいくと、突き当たりにど~んと大きな古民家が現れます。そのアプローチの目印に、田んぼの畦にちょこんと看板が立てられており、かわいらしいパンのイラスト目を引きます。そう、「〝天然酵母パン〟と季節のおやつ」として昨秋、古民家のお店を再オープンしたのです。

 

今回いっぴんさんでは、「季節感があって大地を戴くもの。そんな気がするので」と、土曜限定カフェ時代の原点として「玄米ごはんのパイ」を取材させていただくものに選んでいただきました。「季節感があって大地を戴く」パイとはどんなパイなのでしょう。それは誌面をぜひご覧下さい(笑)。

 

おちちやさんといえば、白砂糖や卵、乳製品を使わない、素材の持ち味を生かした優しい風味のスイーツが定番でした。それは今も変わりませんが、東日本大震災をきっかけに、周東さんはこれまで行っていたカフェの営業を休止され、しばらくお菓子づくりに絞って活動を続けられます。そして、気持ちに整理をついた時、ある想いが込み上げてきました。

 

………十代の頃からパン屋になることが夢だったんです。

 

「(富ヶ谷にある)ルヴァンに通い詰めました。

 お手伝いをさせていただいたこともあるんですが、

 本当は働きたかったんです。

 けど働くのも順番待ちの状態で。

 当時は天然酵母のパンって

 まだ知られてなかったじゃないですか。

 (天然酵母のパン屋で働く)受け皿も

 ほとんどなかったんですね」

 

「子育ての傍ら、

 本で学びながら自己流でなんとかやり始めました。

 ただ、本格的にやるには

 技術をブラッシュアップしなければりませんし

 機具を揃える必要があったりと

 ハードルが高かったんですね。

 そこで、始めやすいお菓子づくりからやり始めたんです。

 そうしたら思いのほか評判になりまして」

 

こうしてパンづくりの夢を抱きつつも、子育てと平行しながら忙しくも愉しく、お菓子づくりと、土曜日限定のカフェの営業をこなす日々が始まりました。軌道にのってしばらくした折、発生したのが大震災でした。悩む日々を乗り越え、気持ちが落ち着いた時、ふと気が付いたのが、抱き続けていた少女の夢でした。

 

「今ならパンができる」

 

そう思い立って行動を起こし始めると、千葉県や奈良県のパン職人の友人からアドバイスをもらえるように。あっという間に昨秋のオープンへとこぎつけたのです。

 

パンに使う酵母は自家培養のレーズン酵母と玄米酵母を用い、どのパンも噛み締めたくなるような美味しさです。さらに、素材については周東さんの地元へ向けた想いが滲み出ています。

 

「お菓子は基本的に動物性食品を使いませんが、

 パンはナチュラルチーズを使ったりもしています」

 

と、パンについては「敷居を低くしたい」といいます。

 

「これまでは、好きな人は好きだけど、

 興味のない人はないという感じだったんですね。

 おちちや(という店が)あるのは知っているけれど、

 近所の人は興味を持たないなぁって。

 知ってるけど興味は持たない。

 そうかと思えばお菓子教室は、

 ほんとに遠い所では関西など遠くからいらしゃる。

 でも、近くにいる方とも繋がりたいんです。

 普段お会いするのはご近所の方だから。

 近所の方に喜んでもらうのが一番嬉しい」

 

「お婆ちゃんがお散歩の途中で来られるような。

 近所の子がお小遣いを握りしめて来てくれるような。

 ここでやる以上、地元の人に、日常的に食べて欲しい。

 今、たまに子どもの友だちが来てくれるんです。

 ご近所さんが、犬の散歩のついでに立ち寄ってくれたり。

 ささやかな幸せをお届けしたいんです。

 お菓子の時よりも敷居が低くなった気がします」

 

日常にあるささやかな幸せ。

自分自身がそれを実感でき、ちょっぴりお裾分けできる。

ここで生きることの充実感というものが、

周東さんの少女のような瞳から溢れているかのようでした。

今後はカフェメニューにピザを加えられたら、とのこと。

食と地域に寄り添うささやかな幸せは、

まだまだ花開いていくようです。


  東京の隣だから、

  文化度が低い?

  名物がない?

  個性が薄い?

  東京24区、ちばらき

  なんと云われようとも、

  食と真剣に向き合う

  「べっぴんさん」な心を持つ人が

  「いっぴん」を生み出し続ける。

  だからこそ、房総のプライドは

  編集を求めているのです。