工房に煌めく光の小宇宙。それはちょっぴりおちゃめなぬくもりを湛えた、柔らかな硝子でした。睦沢町の田園の奥へ〜「硝子屋 福」さんを訪ねて

 

「硝子屋 福」

長生郡睦沢町上市場1639-3

古家具と遊びごころに囲まれて。長屋門の扉の上で輝く硝子たち
古家具と遊びごころに囲まれて。長屋門の扉の上で輝く硝子たち

房総半島内陸がおもしろいです。

里山のカフェ、田園の中のパン屋や蕎麦店など、これまでの観光地とは一線を画したお店が、新たな休日の愉しみ方をそっと教えてくれています。茂原市の南側に位置する、田園広がる睦沢町もそんな地域です。このまちには、ずっと訪ねてみたかった、ものづくりの現場があります。

 

県道から脇道に入ると、鬱蒼とした薮の向こうに田んぼが広がります。この田んぼの向こう側、いかにも作業場風の建物が、森の前にちょこんと佇んでいます。そう、こここそ目指していたものづくりの現場、「硝子屋 福」さんの工房なのです。


硝子屋福さん、駐車場に車を止めた時から思わず笑みがこぼれてしまいます。ちょっと色褪せたコカコーラのベンチの脇に、組み合わせたタイヤにあしらった花の彩り。アンティーク調の家具が並んだアプローチから入口をみると、手書きでざっくりと『アウトレットフェスティバル』と書かれた、手作り感満点の文字が掲げられています。遊びごころ弾ける工房の佇まいに、気持ちが躍ります。

硝子の窯に設置されていた坩堝(耐熱の壷)も周りの風景に溶け込みます
硝子の窯に設置されていた坩堝(耐熱の壷)も周りの風景に溶け込みます

中にお邪魔すると、その遊びごころを詰め込んだような福田さんがお出迎え。私が前掛けバッグを肩から下げていたところから、肝心の硝子でなく、前掛けの話で盛り上がってしまいました(スミマセン・・・)。

坩堝メーカーの前掛けもあるのでびっくり。いちまいの前掛けは福田さんがアレンジされて座布団になってました
坩堝メーカーの前掛けもあるのでびっくり。いちまいの前掛けは福田さんがアレンジされて座布団になってました

福田さんは九十九里町にある菅原工芸硝子で腕を磨いたのちに、2007年に独立。

 

「『穴空けてもいいよ、プロパン10本置いてもいいよ』

 って言ってくれる、本当にいい大家さんで」

 

と、周りの人たちに支えられつつ、こちらの吹き硝子工房を設けました。今月から、窯のメンテナンスが落ち着いたあと、硝子体験も再開されるそうです。

 

工房内にある古家具の数々も大家さんが集められたものだそう。硝子工房というと無機質なイメージがありましたが、この古家具が工房内に溶け込んでいるため、不思議とぬくもりが感じられます。私が、福田さんの硝子がお気に入りなのはその曲線が好きだからですが、幾何学的な曲線ではなく、柔らかくあたたかな印象を抱くことができる曲線なのです。そう、この工房から滲み出ているぬくもりのように。


この日はアウトレットフェスティバル、ということで、「訳あり品」がお値打ち価格で販売されています。以前、房総の工芸・民藝をセレクトしたショップ「北土舎」さんで購入した、愛用の硝子のコップと同シリーズの硝子を見つけ、思わず二つも購入してしまいました。他にも魅惑の硝子がいっぱい。

 

しかも嬉しい事に、福田さんからお手製の鶏雑炊のお振る舞いが登場。しかも外でちゃぶ台、というおちゃめな演出まで!たまたまいらした別のお客さんとともに、さらさらと雑炊を味わいます。


こんな愉快な硝子工房が果たしてありますでしょうか。福さんの硝子の器を使う時に、思い出し笑いしないよう、注意しなければなりませんね(笑)素敵な硝子の世界とおいしい出逢い、ありがとうございました。