「今度、蕗を刈りに行くんだけど、一緒に行かない?」
…市野川住民の特権です
嬉しいお誘いをいただいて、あたたかな陽気の昼下がり、市野川のツトムさんをはじめ、スミちゃんと寺の下の千葉さん、千葉設計の千葉さんの4人で蕗(ふき)刈りに出かけました。
集落内にはあちこちに蕗が生えていて、にいさんちにもちらちらと姿を覗かせています(ちなみにうちには秋田蕗が群生しています)。ですが、今回刈りにいく場所は地元のヒミツの場所。集合場所から軽トラに載って、そのヒミツスポットまで連れて行ってもらうと、小山の山裾が蕗でびっしりと覆われているではありませんか。
軽トラから下りて、作業と休憩スペース用のブルーシートを広げて準備開始。鎌を手にし、怪我をしないよう手袋をはめます。過ごしやすい春といえども、ずっと日中の日差しを浴びていると汗ばむような暑さになりますから、帽子やタオルなどの暑さ対策が欠かせません(といいつつ私は帽子を忘れてしまいましたが・・・)。みなさん、かわいらしい野良着スタイルです(笑)
準備が整ったらいよいよ刈り取りの始まりです。
「佃煮にしちゃお~。いっぱい取って」といいながら寺の下の千葉さんが跳ねるように蕗の群生地に入って行きます。蕗の葉の揺れるざわざわとした音と、ザッ、ザッという鎌を入れる音がそこここで響き、土の匂いがぱぁっと弾けます。不意に、
「あの花分かる?山法師っていうのよ」
と、寺の下の千葉さん。山の緑の斜面に、白い山法師の花が明るさを添えています。この日は5月といっても随分気温が上がり、むっとした草の匂いが辺りに漂っています。まるで梅雨の足音が聞こえてくるような、森の匂い。
みなさん慣れてらっしゃるので、収穫した蕗の束が次々と運ばれ、あっと今に山盛りになっていきます。だいぶ刈った蕗がたまりましたので、今度はビニールシートの上に座って、蕗の葉っぱを取り除いたり、太いものと細いものを分けたりしていきます。
「(蕗が)若い時には葉っぱも佃煮にするよ」
ということですが、この時期になると葉は固くなるようです。
「きゃらぶきにするには細い方がいいよね」
「うちは、石蕗(つわぶき)も皮を剥いて佃煮にする」
「(蕗の皮を剥きながら同時に)手でぶっかいてやれば(湯がく時)ラク。20分くらい湯がいてやるかな、今はもう時期が遅いから」
と、下ごしらえや調理について、各家庭の様々なやり方が会話に飛び交います。
「お父さん勢いいいね~!こんなに!
お父さん~、もういっぱいよ~。
食べ過ぎると顔が青虫みたいになっちゃう」
と笑う寺の下の千葉さん。収穫した蕗を次々と運んでくるツ「お父さん」ことツトムさんのうちでは蕗煮を
「シーチキンとあわせて食べる」
のだとか。手軽なアレンジで食べやすく。これは試してみたいアイデア料理ですね!
みなさん、4月5月はほんとうに蕗ざんまいになるそうです。蕗を鍋でくつくつやっては、真空パックなどにして、一年を通じて蕗煮が食べられるようします。
「先月のガス代はいつもより凄いかかったね。
お醤油、お酒、味醂も(使った量が)ぜんぜん違う」
と、蕗の葉を取る手を動かしながら千葉設計の千葉さんはいいます。それほど、春の旬は勢い良く弾けるようにやって来て、そして過ぎてゆくのです。
「あっ、三つ葉!」
と、不意に声が挙がりました。蕗の束に三つ葉が混じっていました。
「お味噌汁や卵とじにしたら美味しいのよ~」
そう教えてもらいながらその三つ葉を頂いちゃいました。三つ葉のなんて香りのいいことでしょう。すっと空に駆け上がるような爽やかな春の香りです。
「一人じゃや~よ~、こんなところで」
といってちょっとおどけてみせる寺の下の千葉さん。でも、こうしてみんなでやると楽しくあっという間に作業が進んじゃいますね。食べきれないくらいになっちゃいますから今日はこのくらいで終わりに。ひと段落したら山の緑に囲まれて、お茶の時間にしましょう。
お饅頭やら揚げ煎餅やら持ち寄りのお菓子とお茶で、青空のした、ちょっと贅沢なにわかカフェの誕生です。お茶を戴きながら地元話で盛り上がります。特にスミちゃんはもともとの市野川のひとなので、風習や集落内のできごとにたいへん詳しいです。
「お月見の時、団子やお菓子、栗、柿とか盗みに行ったもの~」
「風習としての盗みだね。
まぁ、盗むというより、お供えを下げてくれるという感じだね」
とツトムさんがさらに解説を加えてくれます。ただ「今は子どもがいないからね」と、団子などのお供えはするものの、盗む風習は今は市野川ではもうないようです(海辺の地区でまだ行っているところがあるようです)。
「結婚式も家でやってたね」
「最後にやったのはどこの家だったかね?」
「そうそう、そういえば市野川の昔話があるじゃない」
「狐にだまされて、集落にある堰でいっぱい魚を釣って持って帰ったら、
全部葉っぱだったって」
「人魂なんて話もあったじゃない。昔は死人を土に埋めたでしょ。土葬よね」
「雨上がりの時なんか、リンが反応したんでしょう。
子どもの頃、葬式の後は怖くて歩けなかったわよ」
「子安講で怪談話もしたよね。
トントンと音がしたら、誰かが亡くなっていた、とか」
どんどん話が膨らんで、民話の語り部会場のように(笑)勝浦のわずかひとつの地区でこれだけ言い伝えられる話があるというのはすごいことですね。
さぁて、ゆっくり身体を休めたらそろそろ後片付けをしましょう。
蕗をまとめてビニールシートを折り畳んだら・・・おや、寺の下の千葉さんが地面と睨めっこしていますね?
「これ、ヘビイチゴ。
焼酎に浸けておくと、虫刺されの薬になるのよ」
と、帽子の中にかわいらしいヘビイチゴがいっぱい。
「ただ浸けるだけでカンタンだから、作ってみなさいよ~」
ということで帰宅後、さっそく焼酎につけてみました。
ネットでもいろいろ見てみましたが1ヶ月ほど置いてから使える状態になり、焼酎は35度の高めの方がいいみたい。虫刺されの薬なんて当然買うものと思っていたので、ヘビイチゴと焼酎からできちゃうのにびっくりでした。
一方、肝心の蕗ですが、煮物は実はいっぱい戴いていた(有り難いことです!)ので、最近ハマっているピクルスづくりを蕗でもやってみることにしました。名付けて「フキルス」です(笑)ラディッシュの時はピクルス液づくりからやったのですが、この日はちょっと手を抜いて、富士酢でお馴染み飯尾醸造さんの「ピクル酢」に、皮を剥いて茹でた蕗を瓶に詰め込みます。
これがシャッキリとした食感で、香り高くなかなかの味わい。ただ、細い蕗を選んで漬け込むと、固さの残らないよりよい口当たりの「フキルス」ができそうな気がしました。
知ることで、今ある自然がもっと豊かに感じられる。
そう実感した蕗刈りなのでした。みなさんありがとうございました~