かずさパン物語(1)「ありがとう」のある仕事に目覚めた女性が、生き方の軸をパンに込める~木更津市「手作りパン M.ROSA」(前編)

 

田園の向こうへ

笑顔あふれるパン屋さん

ホシノ天然酵母の赤種で仕込んだプレーンベーグルは「香りが良い!」と、尾辻さんのおすすめの一つ。トーストした後の皮のさくさく感もたまらない
ホシノ天然酵母の赤種で仕込んだプレーンベーグルは「香りが良い!」と、尾辻さんのおすすめの一つ。トーストした後の皮のさくさく感もたまらない

看板を頼りに、国道から水田の中の小道へ。

こんな田園地帯に果たしてパン屋があるのでしょうか・・・農耕車とすれ違いながら、一抹の不安が過(よぎ)ります。ようやく田園の端っこに宅地が現れ始めた頃、田んぼの土草の匂いに混じって、その一角からふわりとパンの香りが漂ってきました。

色とりどりの花が咲く庭では、

 

「娘に頼まれて」

 

と、メモを手にするおばあちゃん。カウンターでは

 

「近くなんですけど、最近やっと気が付きました」

 

と、自転車でやってきた女性がパンを携えています。

そして、

 

「まだ越してきて間もないのでいいカフェを知りたい」

 

という妊婦さんにアドバイスをしているのは、ここ「手作りパン M.ROSA(ロサ)」店主の尾辻真弓さんです。

「26年間、半導体工場に勤めてたんです」

 

そう打ち明ける尾辻さんですが、オーブンから焼き上がったパンを取り出すその姿からは、なかなか「半導体」のイメージは湧きません。

 

当初は仕事の合間にケーキを作るつもりだったという尾辻さん。ところが、ケーキのレシピ本を見ていたらパンのクグロフが載っていて、試しに作ってみたらうまくできてしまったとのこと。そこからパンづくりに邁進することになります。そののめり込み具合は

 

「ほんとに毎日やってましたから」

 

というほど。仕事から帰るとパンづくりに取りかかる日々。

 

「食べるより、作りたい」

 

と、工場の仲間に食べてもらうこともよくあったそうです。

勤めていた工場の近くにあったパン屋の「気さくな店主」が、惜しみなく製パンのノウハウを教えてくれたことも追い風になりました。さらに、

 

「基本はしっかり抑えておかないとと思って、

 パン教室に1年半通って、

 講師の免許も取りました」

そしてある日、尾辻さんの勤めていた工場が今後閉鎖されるということが告げられます。それがなんとパン教室卒業の翌日だったのです。その時、「気さくな店主」はこうアドバイスしたといいます。

 

「尾辻さん、やっちゃいなよ!」

 

 

 

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