かずさパン物語(4)社会という旅路の先で、小さな豊かさを紡ぎゆく~木更津市「天然酵母ぱん 紡」(後編)

 

里の暮らし、

パンのある生活

帽子を被ったような姿がかわいいメロンパン(左)。木工工房の倉庫を改装して創り上げた小さなパン工房。その佇まいから、星見夫妻の暮らしのあり方が心地よく醸されています(右)
帽子を被ったような姿がかわいいメロンパン(左)。木工工房の倉庫を改装して創り上げた小さなパン工房。その佇まいから、星見夫妻の暮らしのあり方が心地よく醸されています(右)

「OLをしてまして、バリバリの」

 

と口火を切る朋子さん。

今のこの暮らしと仕事の佇まいからは想像し難いですが、かつてはビジネスウーマンとして活躍されていたそうです。ところが、

 

「会議の時間なんかは暇だなぁなんて思ったり(笑)」

 

そんな会社勤めの傍ら始めたのがパンづくりでした。

 

「ペリエ千葉にあったパン教室に通い始めたんです。

 意外に面白くって」

 

やがて、酵母に白神こだま酵母を使ったパンづくりに熱中。アースデイちばに出店する機会が訪れました。その出店した時を、朋子さんはこう振り返ります。

 

「ベーグルを持って。

 対面販売が面白くて、『美味しい』という声が直に訊けて」

 

当時勤めていた会社は辞めたいと思っており、DAOさんに相談もしたそうです。その際、DAOさんから云われた言葉が、

 

「普通の事、やるなよ」

 

そうして、

 

「パン屋をやるので会社を辞めます」

 

と宣言。会社を辞めてからはパン屋の開店へ向けて、動き出します。

 

矢那の外れにあったアースニックカフェのワンデイカフェに出店するなど、本番の店舗開業に備えつつ、場所探し。木工のかまたり工房(現在はたぬき工房)の方のご好意で、工房の倉庫だったところを改装。矢那の自然と里に抱かれた、小さなパン工房が2010年3月、オープンの時を迎えたのでした。

「一人でやるには量は出せない。

 のんびりやりたかったので。

 小さな子も食べてられるパンを」

 

あくまでも暮らしをベースとした、小さな商い。

陽(ひなた)ちゃんをおんぶしながら工房に立つ、その朋子さんの佇まいをみれば、そのスタンスがすっと腑に落ちてゆきます。

 

そうして生み出されるパンを慕って、請西地区をはじめとする新興住宅地の移住者の人たちや、小さな子どもがいる母親が多く買いに来てくれると云います。

親子で勢揃い
親子で勢揃い

そして見逃せないのが朋子さんと旦那さんのDAOさんとの関係。

DAOさんの営むカフェ「旅ヲスル木」で販売する紡パン。そのパンに使う小麦の一部はDAOさんが栽培したもの。ホクリとしたくちあたりに思わず笑みがこぼれるあんぱんのあんこもDAOさんが育てた小豆から作ったものなのです。


大豆の入った「焼きカレーぱん」はこっくりとした味わいの深さ
大豆の入った「焼きカレーぱん」はこっくりとした味わいの深さ

一方、DAOさんのカフェ「旅ヲスル木」も何回か訪ねたことがありますが、朋子さんがカフェカウンターに立つ場面も多く見かけます。そして、「紡」でも「旅ヲスル木」でも、元気な子どもたちの笑顔があります。

お互いの得意なこと、

暮らしのあり方、

穏やかな自然に抱かれた里の風土。

 

社会という川を流れ旅ゆく木は、そうしたささやかな幸せを紡ぎながら、豊かさの樹となってこの上総の地でしっかりとした根を伸ばそうとしています。パン屋、カフェという二つのフィールドで溶け合いながら。

 

 

 

■天然酵母ぱん 紡(つむぎ)

木更津市矢那928-4

10時~16時(売り切れ次第終了)

休:水曜のみ営業(木曜・土曜はカフェ「旅ヲスル木」で販売)

blog「日々のんびりと。」 →  ● 

blog「cafe 旅ヲスル木」 →  ● 

 

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