『房総のパン Ⅰ 南房総という生き方』発刊に寄せて

本日、ついに発売です

Posted on 2016.8.21


カフェの本を出版している時から、「房総のパンを紹介した本があったらいいな」というご要望は多くいただいており、漠然と房総のパン本は作りたいなと前々から考えていました。個人的にもパンは好きですし(笑)

 

そんな折、5月に関西一周の旅に出て、各地の本屋さんを巡る中で、漠然としていたものが、次々と具体的な姿となってきました。

 

神戸の「1003」『宮崎パン日和』というリトルプレスに出逢い、地域のパンをこんなに楽しく編集できるんだ!と感動しました。宮崎の「KIMAMA BOOKS」では、本屋を営みながら実際『宮崎パン日和』の制作に携わられたクドウタツヒコさんからお話を伺うこともできました。

 

岡山の「451BOOKS」に至る頃には店主の根木さんと(半分冗談ながら)本のタイトル名を考察。「やっぱり『房総』は入れた方がいいよ」とのご意見も踏まえ(私も房総という言葉には愛着があります)、シンプルに『房総のパン』としました。

 

その後、京都で全国のリトルプレスを扱う「風の駅 旅の情報ステーション京都」では具体的な企画内容まで話題になるという・・・(これは房総のパンの第2弾に活かせるかも?)。加えて風の駅では、愛媛県のマチボンシリーズ『愛媛のパン』と出逢ったりと、いいインスピレーションをいただきました。そんな構想を経て、第一弾のパンの本として完成したのが本書でございます。

 

『房総のパン屋』ではなく『房総のパン』というタイトルなのは、店のガイドブックという要素だけではなく、お店でなくとも、パンとともにある暮らしや商いから、生き方について考えるきっかけになればとの思いがありそのようにしました。第1弾に南房総というフィールドを選んだのは、海や山という風土、農ある暮らしが、パン、そして人と非常に近いところにあることから、その思いを分かりやすく伝えられると考えたからです。

 

編集を終えて、やはり私の心にズシリと響いたのは、昭和4年開業の老舗「館山中村屋」の四代目、長束清実さんの言葉の数々でしした。館山中村屋の取材を通じ、私達は今「変化の質」を問われている時代に生きているのだと強く思いました。それはパン屋も、本も、情報も、そして社会も。変化に何を求めているのか、その先を見つめる眼差しの違いによって、質に差が出る。未来へ向けた視線に、理念や倫理観、そして愛がどれだけ含まれているのだろう・・・そういうことを考えさせられました。

 

昨日今日と、取材させていただいたお店に本をお届けに回りました。その中で何人もの方が「親や親戚に贈ります」と言っていただけたのが本当に嬉しかったです。形としての本も愛着がありますが、物質的な形という範疇を超えて「贈り物」になる。編集者冥利に尽きます。私のこの小さな出版・編集のあり方は、こういう声をひとつづつ積み重ねることなのだと思っています。

 

平成28年8月