盛岡のミニコミ誌『てくり』のトークイベントへ。モノとしての存在、ふだんの記憶。本当に伝えたいのは、なんだろう

2月の東京通いの、もうひとつの理由

先月はここ10年内では相当珍しく延べ4日間も東京にいました(どれだけ田舎者なのだろう・笑)。『d design travel 千葉』がらみの訪問が多かったのですが、実はもう一つの主たる目的がありました。

 

それは、下北沢にある本屋「B&B」で行われたトークイベント、

「SNSに載らない盛岡、を話そう!」~地域誌からみえるローカルの今~

に参加することでした。

 

創刊14年目を迎えた盛岡の地域ミニコミ誌『てくり』編集部(まちの編集室)が、岩手県盛岡市シティプロモーション事業の一環として主催する催し。てくりの写真でおなじみの写真家・奥山淳志さん、自らリトルプレス『のんべえ春秋』も発行する文筆家・木村衣有子さん、雑誌『ソトコト』副編集長・小西威史さん、そしててくり編集部からは木村敦子さんが登壇。それぞれの目線で地方創生や関係人口,ローカルとリトルプレスなどを切り口に「盛岡の今」について、ざっくばらんにお話するというものです。

 

『てくり』は、

『伝えたい、残したい、盛岡の「ふだん」を綴る本』。

 

秋田県在住時代は仕事が行き詰まっていて、気晴らしによく盛岡へ遊びに行っていたのですが、ある日ホームスパン工房「中村工房」を訪ねました。三代目の中村博行さんとお話する機会を得て、自然、人生相談のような展開に(笑)。そこで「キミのやりたいことはこういうことじゃないか」と私にプレゼントしてくれたのがてくりの2号だったのです。てくりの本づくりに対する「姿勢」は、千葉に戻って本づくりをやっている今も私にとって大きな存在です。

 

そうそう、つい最近てくりの最新刊が出ました。

特集は「クラフターズ」。

家具屋Holzの店主・平山さんの言葉が目に焼き付いて離れませんでした。自分の立場と重ね合わせながら、じっくりと咀嚼して、噛み砕いて。そうしたくなる言葉です。

 

今の時代、売るモノのことを深くきちんと知らなくても時代の流行の中で成り立つビジネスってあるじゃないですか。ホルツはふんわりした生活空間を提案するとかではなく、「モノ」を届けたい。物質としてのモノを。あるいはこの場所に足を運んでもらって対話しながら買ってもらうことで「どこの店で買ったか」をきちんと記憶できるように』

 

さて、B&Bのイベントです。

店内はイベントに合わせて盛岡の物産品がずらり。

なんと、盛岡の「さわや書店」の再現まであってびっくりでした(笑)。

ドリンクは、じゃじゃめん「白龍」の近くにある「六月の鹿」のコーヒーを戴きました。盛岡には毎年行っているのにタイミング合わず未だ六月の鹿のお店には足を運ぶことができず。今年こそは・・・。

トークは写真を通じた盛岡の魅力について触れた後、「リトルプレス」「地方」「移住」をキーワードに盛り上がっていきました。ざっくりとですが、印象に残った部分を記録してみます(話し振りなどは読みやすいようには編集してありますので悪しからず)。

 

     ◆

 

ーーリトルプレスの潮流

小西さんーー

(リトルプレスは)思いがあるから出せる。ただ、3号くらいで(自分の価値観を出したいという)欲求を出し切っちゃって終わっちゃうのも多い。2010年代は、自分の価値観を出したいというので媒体の発行が盛んになって、2015年頃にそれはひと段落しました。今は地方創生系が多い。

 

ーーなぜ、続けられるのか?

木村敦子さんーー

地方で出版社がなかったので(てくりのような本を出せる)自分たちでやるしかなかった。(てくりとは別に各々仕事を持っているという)暮らしていける軸があります。

無料配布にすると(お金が担保されないと)終わっちゃうので売るようにしました。「売れる」ということは「続けられる」ということかなと。

 

ーーリトルプレス文化を見てどう思うか

小西さんーー

地元にある喫茶やパン、古い建物、ものづくり人へのインタビューなどが多い。ネット印刷ができて、今は写真もきれいなのが撮れる。(本を出す)ハードルが下がりましたよね。

ただ、作ったあと、どう届けるかがというところで、みんな壁にぶつかるんですよ。(てくりが最初にさわや書店に販売のお願いに持って行ったように)自分で開拓する気概があるかが問われる。

 

木村衣有子さんーー

出版社からも本を出しているが、私からは売れないんですね。自分で動かせるモノが欲しかった。話を聞いてて思ったんですが、流通をやりたかったんだなと。

 

ーー盛岡好きなの?

木村敦子さんーー

盛岡大好きというより、悪くはないですよーという感覚。大好き感でやってる訳ではないよね。

 

木村衣有子さんーー

「地元大好き!」というと、褒められる風潮があるよね。

 

ーー移住ブーム、その後

小西さんーー

今は、ひと通り移住やりたい人はやっちゃったかな。(関心持つ人は)移住しちゃった。自分で商いとか、ものづくりとかやって。(地域おこし)協力隊も人集まらない自治体が出てるでしょ。移住ブームのきっかけになったのが、2000年代。不景気で社会のセーフティネット的な役割になったと。

この一年、東京の学生が地方に行かなくなってる。今は移住特集が飽きられたかな(笑)。(移住の掛け声が)条件闘争になってる。パイの奪い合い。家賃補助とか、家に畑つけますよとか。そうすると行政が疲弊していく。だから、移住まで行かなくてもいい。関係を持ってくれること。

 

奥山さんーー

僕「地域の納め方」をやりたいの。そういうのができないかなぁと。

 

ーーてくり創刊のきっかけは?

木村敦子さんーー

やりたいことは、自分のお金でやるのがいいと思います。行政に出してもらうのではなく。

(てくりは)日常の暮らしを綴る。人を紹介したいんです。なくなっていくものを記録したい。伝えたい。記録媒体としても作ってて。50年後、100年後の編集者が、昔こんなのがあったんだって見て欲しいな。

地方に移住し、リトルプレスをつくっている一人間として、トークの内容は腑に落ちるところ、改めて考えさせられるところが非常に多いものでした。特に、木村敦子さんが最後に語られた『50年後、100年後の編集者が、昔こんなのがあったんだって見て欲しいな』という言葉は、時代の流れに翻弄される自分を一歩踏みとどまらせ、熟慮する機会を与えるものでした。それは、先に紹介したホルツの平山さんの言葉にも通ずるものがあるように思います。

 

トーク終了後、(カフェ・喫茶好きとしても)憧れの木村衣有子さんとお話することができました。木村さんに「中村屋の記事読みましたよ」(『房総のパン』に掲載している館山中村屋記事です)とおっしゃっていただいたのは、もう最高の褒め言葉でした!しかも木村さん、実は千葉にもご縁があるのです。

 

帰り際に購入させていただいた(もちろんサインもいただいちゃいました♪)ご著書『はじまりのコップ 左藤吹きガラス工房奮闘記』(亜紀書房)。ここに、九十九里浜に面した町、白子に工房を構えてらっしゃる左藤玲朗さんの物語が綴られているのです。

 

拝読しましたがこの本は、ただモノづくり的良さを雰囲気で伝えるものではまったくありません。ひとりの生き方と商い方そのもの。その左藤さんの姿勢、佇まいのひとつひとつを自分の中に落とし込み、自らのこととして一考される木村さんの綴る言葉にも、思わずはっとさせられます。

 

『今、そういうタイプのガラスがうけているんだけど、それを見越してやったわけじゃなくて、単に、否応なく、選択肢がなかったからそうやってきただけなんです。だけどそれをだんだん忘れて、自分が、いかにも先見の明があってやったように頭の中ですり替えているようなときがある。けど、考えてみると、そうじゃなかったなと。単に、色使ったら売れないとか、あと、色の使い方が分からないとか、ひとりだからこれは難しいとか、それが結果的に受け入れられた。結局、単に、しつこく、一生懸命やったからよかったんじゃないかなと思うんです』

この日は新たな出会いもあり本当に貴重な一日でした。そして、てくり編集部のみなさんと久しぶりにお会いできて嬉しかった!お誘いいただいた水野さん、そしてみなさま、どうもありがとうございました。