小諸市の丘のうえ「茶房 読書の森」〜田舎から世界に繋がる〜10月には房総の誇るイラストレーター、山口マオさんの展示会が行われます

ロバの笑顔に誘われて

読書の森に移設された「どうらくオルガンちちんぷいぷい」。大地と、世界と共鳴しながら佇んでいます
読書の森に移設された「どうらくオルガンちちんぷいぷい」。大地と、世界と共鳴しながら佇んでいます

山の、山麓にも、こんなに街があるんだ


………丘のうえから見渡すと、浅間山から連なる丘陵が、ある場所から千曲川の流れによって削られ、独特の高低差と山まで広がる伸びやかな風景を魅せてくれています。その様子は、房総で見る街の景色とはまったく異なるものです。港もないのに「街」になっている。海が基点となる房総から、海に接していない信州を訪ねると、いつもこの街の佇まいに驚かされ、また魅了されます。


ここは東信地方の中心都市のひとつ、小諸市。

今年のお盆は新潟の祖母の家に帰省する道中、長野県に立ち寄りました。街の再生で熱い上田市でも散策しようかと思いつつ、まずは布引観音温泉で朝風呂と洒落込みます。心地よい湯と、隣の浴室から訊こえる地元のお婆ちゃんたちの元気な会話にパワーをもらい、湯からあがると、一枚のフライヤーが目につきました。


「茶房 読書の森」


布引観音温泉からも、車ならすぐ行けそうですし、何より「読書の森」という言葉に興味をそそられました。案内板を頼りに、町並みを愉しみながら、ゆっくりその森へと向かいます。

千曲川の段丘から急坂を登り、細い山道を抜けると、不意に視界がぱっと開けました。御牧ケ原と呼ばれる台地です。向日葵と咲き始めた秋桜の向こうに田んぼが広がり、小道が景色の向こうまでゆるやかな曲線を描きながら伸びています。そよ風が遊んで行きそうな、なんて素敵な風景なのでしょう。


読書の森は、この小道の先にありました。


■「茶房 読書の森」

小諸市大字山浦5179-1

http://kp2y-yd.wix.com/gh-dokusyonomori



アートの散りばめられた木立の中から現われたのは、本がいっぱい詰まった空間でした。


が、朝から何も食べていなかった私は花より団子(笑)。

まずはチーズケーキとチャイを戴きました。

チャイのポットがかわいい
チャイのポットがかわいい

読書の森を切り盛りされている依田(よだ)ご夫妻とお話し始めたところで、思わずアッと声を挙げそうになりました。山口マオさんの作品やポストカードがいっぱい飾られているじゃありませんか!

マオさんといえば、「マオ猫」や「わにわに」でお馴染みの、南房総市千倉町在住のイラストレーター。前職のぐるっと千葉時代に連載「マオ猫のないしょ話」で随分とお世話になりました。


訊けば、知人がマオさんをこちらに連れてこられて以来、依田さんとマオさんは20年来のお付き合いになるそうです。そんなこともあり、この読書の森では山口マオさんの展示会もたびたび行われています。10月にはマオさんの展示会を行う予定だそうですよ。

絵本作家の田島征三さんの作品も展示されています
絵本作家の田島征三さんの作品も展示されています

ここ、読書の森ではゆったり本を読みながらお茶を愉しめるのはもちろん、こうした作品の展示も行われています。いや、それに留まらず、ゲストハウスの営業から、読会やライブ、マルシェの開催などなど、挙げていったらきりがないほどに、様々な活動を展開をされ、様々な人たちが集っているのです。


「人が集まってくるのも、遂に国境を超えちゃったね」


と笑う依田さん。

実は、「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」(新潟県十日町市)で展示されていた「どうらくオルガン」が雪で潰されると云われていたところを引き取り、国内外からのボランティアを募って、読書の森まで運んで来たのです。


この日も、そのどうらくオルガンの脇にある小屋で、ウーファー(WWOOFer)のお二人が作業中。


「そろそろお昼にするから読んで来て」


と奥様に云われて、奥にある森の広場へと向かいます(あっ、もうそんな時間なんですね!)。

その木立のなかの空間は、愉しげなものでいっぱい。

『おしゃべりかぜが

 こおろぎとはなしてた

 くさくさ くさのにおい

 おいおいあしたは はれようび

 こかげはしっとりしっている

     しっとりいっている

 めいめい

    のんきに おすごしあれ

 ぶるりらん ろば めりめり

       くさのごちそう

 たったこた やぎ とうんで

 かぜは にぎやかに

     おしゃべりし

 ことりが ちいさく

     つぶやいた

 

 あさっては

 あめようび

 あめ

 あびに

 いらっしゃい


 ほんをかたてに

 いらっしゃい


          GOKU.』

初めてゲル(パオ)に入りました。天井の中心から注がれる光がきれい
初めてゲル(パオ)に入りました。天井の中心から注がれる光がきれい
このストローベイルハウスでウーファーのお二人は作業中でした
このストローベイルハウスでウーファーのお二人は作業中でした

土壁ハウスに描かれたマオさんのロバ
土壁ハウスに描かれたマオさんのロバ
そっくりですね(笑)
そっくりですね(笑)

さて、お昼の時間です。

私もみなさんの輪の中に混ぜてもらいました。

奥様お手製のチャーハン、おいしい〜!
奥様お手製のチャーハン、おいしい〜!

ウーファーのお二人はイタリア人とフランス人。

そのうちの一人、フランス人のMEHDi MEDHAFFAR(メディ・メダファーラ)さんが、なんと杜氏を目指して修業されているということで、お話が盛り上がりました。


上田市にある造り酒屋、岡崎酒造で12月の下旬から、3月の中旬まで働き、その後、島根県の酒造に就職が決まったのだという。


「化学を学んだ。

 日本酒の『発酵』に興味を抱いた」


のが酒蔵に入るきっかけだったというメダファーラさん。その製造工程を教えてくれました。


「麹菌はお米カットして、お米、砂糖にする」


「うん、ブドウ糖だね」


と依田さんの補足が入る(笑)。


「酵母はこの砂糖食べる。アルコール作る。

 お米を洗って、素手で。

 米洗うのが冷たい」


「1時間くらい浸して、その後、蒸す。

 涼しくして、温度を下げる。

 33度くらいで。

 大吟醸は32度くらいまで下げる・・・」


蒸米をかき混ぜる仕草をするメダファーラさん
蒸米をかき混ぜる仕草をするメダファーラさん

おもしろかったのは、フランスにおける日本酒の立ち位置。メダファーラさんから見たフランスにおける日本酒は、


「5%の人はわかる、好き。

 だけど、多分、95%はわからない。

 アジアの酒、と捉えているだろう

 700ml(720?)で5千円から1万円。レストランだともっと割高。

 真澄(長野県)や獺祭(山口県)が多い」


そして、


「純米はお米の味が強いね」


とおっしゃっていたのが印象的だった。

お米の味・・・

端麗、辛口、芳醇という尺度だけじゃなくて、お米の味。

自分はお酒を呑むとき、ここまで意識していたかな。



食後、依田さんと話を続けました。


「喫茶、本、そして自然と暮らす。

 ここにあるものをしよう」


と、読書の森について語る依田さん。

当初は本屋を志しましたが、


「本屋は『億』かかる」


と云われて、まずは喫茶店から始められたそう。もう20年以上も前のことです。


「自分たちのペースを持ちたい。

 ゆるやかにやりたい、ガツガツではなく。

 だから夜はやらない。(お客さんに)云われた時はやる時もあるけどね。

 これまで宣伝もしていないですね、口コミで。

 農家民宿の許可は取っていたけど、宿は最近始めたんです。

 畑も始めた」


依田さんのお話を伺っていると、はじめからコレをやる、とかっちり決めつけるのではなく、「やりたいこと」を自分のスケールに合わせて積み重ねていった結果、様々な人が引き寄せられ集い、今のようなスタイルになったのではないかなと思いました。

依田さん曰く、「控えめに言っても信州一うまい珈琲」をお供に。バリスタの世界大会でその名を轟かす、丸山珈琲の豆を使われているそうです
依田さん曰く、「控えめに言っても信州一うまい珈琲」をお供に。バリスタの世界大会でその名を轟かす、丸山珈琲の豆を使われているそうです


「アートの捉え方が(越後妻有以後)変わったよね。

 もっと地域を掘り下げることからやらないと。

 なんでそこでアートなのか」


地方が誇りを取り戻すきっかけになればと、依田さんは云います。

アートは、正しきことを押し付けるのではなく、関わりやすくしてくれるもの、なのかもしれません。


「越後、瀬戸内は、取り残されていたので残った。

 食い荒らされていない」


房総もしかり。


「マオさんのとこ、千倉に行ったとき、もう何年前かなぁ。

 まぁ田舎で道が悪いんですよ(笑)

 でも、商店が元気だった。

 これ地方で大切じゃないかなと思うんです」


そして今、どうらくオルガンやウーファーの受け入れをきっかけに、


「田舎が、世界へと繋がった」


・・・様々な感性と、様々な人たちが集まる読書の森。

自分と向き合い、田舎で生きる醍醐味を、静かに読み聞かせてくれる心地よい場でした。


おっと、気が付けば5時間以上もお邪魔しちゃいましたね。