鹿角のまちの記憶との邂逅〜多彩な品種のリンゴと、おばあちゃんの優しさでいっぱいです。鹿角りんご直売所「安保りんご店」

たまたま通りがかって見つけた「安保りんご店」。ここはまるでリンゴの博覧会のよう 

Posted on 2015.10.27

紅玉、昂林、旭、千秋、世界一、ゴールデン、シナノスイート・・・これみんなリンゴです
紅玉、昂林、旭、千秋、世界一、ゴールデン、シナノスイート・・・これみんなリンゴです

真っ赤に紅葉した街路樹の向こう、

抜けるような秋の青空。

そこに素朴で可愛らしいリンゴの看板が。

ズラリと並ぶリンゴと年季の入った木箱、そしておばあちゃんたちが愉しそうにおしゃべりしている様子に惹かれて、田代さんの南部煎餅を買ったその足で、お店を訪ねてみました。

■鹿角りんご直売所 安保りんご店

秋田県鹿角市花輪堰向(花輪中央通り)


お店に入ると、甘やかなリンゴの香りに包まれ、様々な品種のリンゴがいっぱい。思わず「うわぁ~」と店内を見渡してしまいます。

白っぽいリンゴもあるんですね~、

と眺めていたら、その隣りには明らかにリンゴっぽくない果実が。


「これ食べられないよ」


と、お客さんのおばあちゃんが「私から」と、ポンと一個のマルメロ(西洋カリン)をプレゼントしてくれました。


「香りを楽しむの。車なんかに置いとくといいよ」


うわぁ、ありがとうございます!

ということで、今車の芳香剤代わりにマルメロが同乗しております(普段は芳香剤なんて使わないけどね)。朝、通勤前に車の扉を開ける度に心地良く秋田の気配を感じているところです。

このおばあちゃん、安保りんご店の常連さんのようで、


「贈答用はいつもココ」


だそう。自分が千葉県から来たことを告げると、


「鹿角を宣伝しなきゃね」


と、新しくできた交流施設やはす向かいにある造り酒屋などを教えていただいた。店番をしている、まいた正子さん(失礼ながら苗字の漢字を失念・・・)も一緒になってガイドしていただきましたが、お二人の会話の節々で、


「・・・だどもね」

「・・・んだんだ!」


と、懐かしい言葉の響きが飛び交い、会話の内容を解釈することよりも(会話の1/4くらいは聞き取れていない・笑)、その語感からかつて瞼に焼き付けた秋田の情景が朧げに浮かんできていて、密かに、感慨に浸っていました。


ふと、


「どれにする?試食してみるか?」


と正子さんがザルに盛られたリンゴに視線を移します。びっくりするほど種類が多く(訪ねた時はちょうど、多くの品種が重なる時季だったそう)迷っていると、コレが甘い!と教えてくれたのが「シナノスイート」。まるまるおっきくて、重量感のある立派なリンゴを手に取り、慣れた手付きで剥きはじめました。


ひと齧り・・・

シャンッ、と小気味好い音を立てるや、香りを抱いた甘いジュースがジュワッと弾ける。美味しい、としか言葉が出てこない。


もう目星はシナノスイートだろうと思いつつも、これだけ多様な品種がごろごろしていると、やはり他のリンゴも気になります。真っ赤でちいさな姿がかわいい「紅玉」は以前、盛岡の神子田朝市で購入したことがあった(菓子作りに向いているという)ものの、この「旭」は初のご対面。いったいどんな味がするの?と正子さんに尋ねると、「これは酸っぱいよ」と云いつつも、またリンゴを切ってくれます。ちなみにこの「旭」はMacintoshの日本語名。Apple社のロゴマークは「旭」なのかも?(笑)


さっそく「旭」を戴くと、実にきめの細かい食感。キュッと清々しくキレのある酸っぱさで、麗しい香り。なんと気品のあるリンゴでしょう。これも気に入ってしまいましたので、結局、シナノスイートをふたザル、旭と紅玉を3個ずつ買い求めました。


いやぁ、それにしてもこれだけのリンゴ、すごいですねぇ!とやや興奮気味に話すと、


「手がかかるのよ。間引いて(摘果)、葉もみ(古い葉を揉み取る)、枝もみ・・・いっぺぇあんのさ」


と、正子さん。さらに伺うと、こちらでは戦後の食糧難の時代にリンゴ栽培のために山を買ったのだそうです。


「私はなんも分かんねぇがら。ずっと農家だから」


そういう正子さんは小3の時に終戦を迎えたそうです(当時のことなので国民学校だったかもしれません)。


「昭和18年頃は、紙に赤く書いて、駅に見送りに行って。

 それが続いて勉強ができなかった」


赤く、とは日の丸のことでしょうか。

終戦後、日本は高度成長を経て、ふるさと創生事業で各地に一億円を交付。


「地方にお金いっぱいあげた時あったでしょ」


(あの、一億円のヤツですかね?)


「んだんだ。えらい人たちが視察に行ったんだよ。そしたら、旅費が高くて使っちゃったの。それでできたのが『消防の鐘』だけ」


と笑います。これが仮に事実であるならばだが、バブリーなお金の使い方をしたのだなと、笑えるような笑えないようなお話です・・・。


「置いたまんまで電気作ってるヤツ」


(ソーラーパネルのことですかね?)


「んだんだ!」


と、パネルも出来てきたと。


「なんもかんも、変わったよ」


と、目の前の駅前の通りを見つめる正子さん。寂しさとこのまちへの愛情が入り交じったような笑顔が印象的でした。

 

時代の趨勢とともに作られ続けた鹿角リンゴ。おばあちゃんたちの優しさとともに、美味しく頂戴致します。