残したい、本屋の生き様〜木更津「紅雲堂書店」

学生たちと本屋をめぐる物語

『房総コーヒー』の追加納品に訪ねた木更津市にある「紅雲堂書店」さん。明治の創業当時の面影を残すその建物。引き戸を開けると懐かしい平台の雑誌コーナーが出迎えてくれます。ありがたいことに(ちょっと恥ずかしいですが)、拙著と元職場の本『ぐるっと千葉』を掲げていただいております(笑)

 

いろいろお話をする中で衝撃的だったのが、店主の鈴木淳之さんがお亡くなりになっていたとのこと。初めての自費出版本『房総カフェ』を携えて訪ねた時に「あぁいいよいいよ」と二つ返事で置いてくださり、本屋さん同士の繋がりについてや、古い木更津の地図を出して歴史についてい教えてくれたりと、本当にお世話になっていただけに本当にショックでした。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 

現在は奥様と六代目となる息子さんで切り盛りされています。毎回パン好きの奥様とは、店の奥にあるお茶のできる交流スペースで話が合い盛り上がるのですが、今日は高校生との交流についてお聞かせいただきました。木更津にある暁星国際高校の学生たちが、社会学習の一貫で紅雲堂書店に通っていて、なんとこんな立派な年表まで作り上げました。

 

「寮制の学校だからね。うちに電話かけてきたり、私とここでお話するのも、人とコミュニケーションするいい練習になるのよ」と奥様。2階のスペースを使って一緒に太巻き作り体験もされたり、古い風情の残る界隈を盛り上げるのはどうしたらいいか話し合ったりと学生たちとの交流を深めていきました。

 

そしてある日、「旦那がもう末期で医者からもどうにもならない」と告げられたことを学生たちに打ち明けた数日後、なんと学生たちは自宅療養で寝たきり状態だった淳之さんの元を訪ね、「ふるさと」の歌や木更津甚句を披露。木更津甚句の時、奇跡的に淳之さんは身体を起こし、手を叩いて拍子をとったそうです。そして葬儀の際にも学生たちが勢ぞろいし、その最期を見届けたのでした。

 

今では学生たちを迎えに来た親たちが「いつも息子がお世話になってます」と声をかけてくれるそう。一方で奥様の方も「本屋としてはもう厳しいけど、いろいろな人に支えられて、やってこれてるよね」。そんな学生たちは卒業してまたそれぞれの道へ。そして後輩たちがまた木更津の旧市街に佇む本屋の扉を開けるのです。

 

 

積み重ねられた様々な人たちの時間、思い、そして人生の機微。古い建物に漂うゆるやかな時の流れは、静かにこの町の物語を包んでゆきます。